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vol.18 糸の世紀・織りの文化シリーズ5「成田思斎の業績(湖北の養蚕・その2)」
成田思斎顕彰碑(相撲町) 養蚕絹篩
成田思斎顕彰碑(相撲町) 『養蚕絹篩』
 昔から養蚕業の盛んであった湖北の地からは、より効率的な養蚕の方法を研究した、優れた農書を著した人物が輩出しました。それが成田思斎です。成田思斎は名を重兵衛といい、坂田郡相撲村(現・長浜市相撲町)の出身でした。彼の業績が集約されたのが文化11年(1814)に刊行された『蚕飼絹篩大成』という書物です。
 成田思斎は、『蚕飼絹篩大成』に先駆けて文化9年(1812)に『蚕飼絹篩』と題する書物を著しているのですが、これらの二著はいずれも農業や養蚕を実践していないと書けない内容でした。『蚕飼絹篩』は蚕の飼育方法を解説した技術書的な内容であり、一方の『蚕飼絹篩大成』には、養蚕に関する様々な作業から、その経済性について、そして桑育成方法や桑や蚕の病害虫についてなど、養蚕業に関する知識が体系的に記載された良書となっています。二つの書物の記述はいずれも平易な文章で書かれており、殊に『蚕飼絹篩大成』には挿絵による解説が多く用いられて、大変読み易い書物です。『蚕飼絹篩大成』の序文には「成田思斎翁、独心をゆだねしあまり、養蚕なき国郡を誘引せまく欲して、今此書画入二巻を編り」とあり、純粋に養蚕を広めたいと考える成田思斎の心情がうかがい知れます。
 成田思斎の著した『蚕飼絹篩大成』は、刊行後70年余りを経た明治17年(1884)になって『養蚕絹篩』という名で再版されます。当時の日本は富国強兵と殖産興業のスローガンの下、急速に近代化への道を歩みつつあり、その中でも製糸や織物などの軽工業は国の主力輸出産業でした。成田思斎の養蚕についての研究は、近世後期にあって科学的なまなざしの中で培われたものであり、『養蚕絹篩』が再版されたのはまさに時代の招請であったのです。
 そして『養蚕絹篩』再版から5年後の明治22年(1889)、成田思斎の出身村落である相撲の地に「成田思斎顕彰碑」が建立されます。その題額は時の農商務大臣井上馨がおこない、撰文は当時の滋賀県知事中井弘、そして碑文の書は明治の三大書家の一人と数えられる日下部鳴鶴でした。この時立てられた碑は、今も相撲町の東の県道脇にあり、毎年晩秋の季節になると地元の人々によって碑前祭が催されてきました。近年では、平成14年に成田思斎の地元に建設された養蚕の館の一室に碑文の拓本を掲げて、成田思斎顕彰の行事が変わらずに催されています。
 成田思斎の業績は、近代になって再評価をされ顕彰をされる様になったのですが、彼の晩年は不遇であったらしく、その生没年はおろか、成田思斎の足跡を記す資料は地元にもほとんど残されていません。一説によると、成田思斎が旧長浜城跡付近の耕地を開墾して桑畑をひらいたことが、当時の彦根藩より咎められたため、故郷に居られなくなり出奔したのだと伝えられていますが、真偽の程は不明です。
 成田思斎の業績に関しては、『長浜市史』第3巻「町人の時代」の490ページから491ページか、あるいは『長浜市史』第5巻「暮しと生業」の295ページから296ページ、または『長浜市史』第7巻「地域文化財」の334ページから337ページに詳述されていますので、併せてご参照ください。
養蚕の館での成田思斎碑前祭の様子
養蚕の館での成田思斎碑前祭の様子
バックナンバー
vol.01 さくら道と柴田源七
vol.02 能面打ち井関家と七条町足柄神社の春祭
vol.03 永久寺町蛇組の蛇の舞と国友花火陣屋
vol.04 薬袋主計と潤徳安民碑 人びとの暮らしを救った彦根藩の武士
vol.05 長浜の紅葉の名所・後鳥羽神社
vol.06 郡上のあだ討ち 日本で最後となった武士の仇討ち
vol.07 御維新長屋とその後の彦根藩士
vol.08 豊国神社十日戎とえびす講 長浜町衆の秀吉信仰
vol.09 石田三成のふるさと長浜
vol.10 郷里五川と樽番 水の差配をめぐる歴史と民俗
vol.11 長浜の「石」のはなし二題 秀吉の愛した「虎石」と「名犬メタテカイ」の伝説
vol.12 姉川地震 百年前に湖北を襲った大震災
vol.13 小堀遠州と小室藩の盛衰
vol.14 糸の世紀・織りの文化シリーズ1「浜蚊帳」
vol.15 糸の世紀・織りの文化シリーズ2「浜縮緬・その1」
vol.16 糸の世紀・織りの文化シリーズ3「浜縮緬・その2」
vol.17 糸の世紀・織りの文化シリーズ4「湖北の養蚕・その1」
vol.18 糸の世紀・織りの文化シリーズ5「成田思斎の業績(湖北の養蚕・その2)」
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